Open Tools API その1:"Hello,World!"を表示してみる

プロジェクトの作成

IDEへのアドオンは、パッケージを作成してそれをIDEに「登録」することで実装される。RAD Studioの場合、[ファイル|新規作成|パッケージ-Delphi]で新規プロジェクトを作成する。Open Tools APIのクラスやインスタンスは通常のプロジェクトでは参照しないので、それらを含んでいるパッケージであるdesignide.dcpをプロジェクトに明示的に含めなければならない。プロジェクトマネージャーで[参照の追加]を選択。$(BDS)\lib\win32\release\designide.dcpを選択すれば、designide.dcpがプロジェクトに含まれる。

「ウイザード」の実装

ウイザードを実装するには、ToolsAPI.pasで定義してあるウィザードインターフェースとノーティファイアインターフェースを継承したサブクラスを定義し、必要に応じたメソッドを実装する必要がある。「本当に」簡単な実装は以下のコード。

unit uMain;
interface
procedure Register;

implementation
uses
  ToolsAPI, Dialogs;

// ヘルプメニューに項目を追加するウイザードクラスの定義
type THelloWorldMenuWizard = class(TNotifierObject, IOTAWizard, IOTAMenuWizard)
  function GetIDString: string;
  function GetName: string;
  function GetState: TWizardState;
  procedure Execute;
  function GetMenuText: string;
end;

function THelloWorldMenuWizard.GetIDString: string;
begin
  Result := 'THelloWorldMenuWizard.1.0';
end;
function THelloWorldMenuWizard.GetName: string;
begin
  Result := 'Delphi Hello World Wizard';
end;
function THelloWorldMenuWizard.GetState: TWizardState;
begin
  Result := [wsEnabled];
end;
procedure THelloWorldMenuWizard.Execute;
begin
  ShowMessage('Hello, world!');
end;
function THelloWorldMenuWizard.GetMenuText: string;
begin
  Result := 'Hello World Demo Wizard';
end;

// ウイザードの登録
procedure Register;
begin
  RegisterPackageWizard(THelloWorldMenuWizard.Create);
end;
end.

継承元クラスのうち、IOTAWizardはウイザードインターフェースの基本となるクラス。IDEのアドオンは必ずIOTAWizardを継承しなければならない。TNotifierObjectクラスはノーティファイアインターフェースの基本となるIOTANotifierのうち最低限のメソッドのみを実装したクラス。IOTAMenuWizardクラスは、IDEの[ヘルプ]メニューに項目を自動的に登録してくれるクラス。IDEにアクセス可能なウイザードクラスで一番実装が楽。

Open Tools APIのクラスやインスタンスはToolsAPI.pasで定義されているので、Delphiではuses節にToolsAPIを記述する。

サブクラスで記述しなければならないメソッドは以下の5つ。

メソッド 役割
GetIDString IDEがウイザードを識別するためのユニークな名前
GetName ユーザーが任意につけるウイザードの名前
GetMenuText [ヘルプ]メニューに追加する項目のタイトル
GetState メニュー項目の状態(有効、無効など)
Execute メニュー項目が選択された場合に呼び出される

サブクラスを定義したら、サブクラスのインスタンスIDEに登録しなければならない。それを行うのがパッケージで定義するRegister関数。インスタンスIDEがこのRegister関数を呼び出すことによって生成されるので管理は必要なし。*1

作成したパッケージをプロジェクトマネージャーからインストールすると、ヘルプに「Hello World Demo Wizard」なる項目が追加される。これを選択すると、お馴染みのメッセージボックスで「Hello, world!」が表示される。

[メッセージ]ビューに"Hello,World!"を表示してみる

上記のコードは普通にShowMessageで"Hello,World!"を表示するだけ。これは単純すぎて面白くないので、IDE下部の[メッセージ]ビューに"Hello,World!"を表示してみる。これは、アドオンを昔ながらのprintfデバッグデバッグするときも有効なので、この方法を最初に紹介。

IDEのメッセージビューへのアクセスは、メッセージビューを取り扱うサービスであるIOTAMessageServicesを取得してAddTitleMessageメソッドを呼び出せば任意の文字列を取得できる。また、AddMessageGroupメソッドで任意のタブを追加できる。

先ほどのExecuteメソッドを以下の内容に差し替えて、再ビルドする。

procedure THelloWorldMenuWizard.Execute;
var
  IMessageServices: IOTAMessageServices;
  MessageGroup: IOTAMessageGroup;
begin
  // メッセージビューに関するサービスを取得する。
  IMessageServices := BorlandIDEServices as IOTAMessageServices;
  // メッセージビューにタブを追加する。
  MessageGroup := IMessageServices.AddMessageGroup('メッセージ出力テスト');
  // メッセージビューに文字列を表示する。
  IMessageServices.AddTitleMessage('こんにちは、世界!', MessageGroup);
end;

これで、IDEのメッセージビューに「メッセージ出力テスト」というタブが追加されて、「こんにちは、世界!」という文字列が表示される。

*1:TNotifierObjectが参照カウントによるメモリ管理をしてくれるため。

Open Tools API その0:概要

戯言前口上

RAD Studioにコードフォーマッターが実装されても、残念ながら、宗教論争にすらなるC/C++のコーディングスタイルすべてをカバーし切れていないのが不満。ということで、RAD Studioのコードエディタ上からGNU IndentUncrustifyといった既存のコードフォーマッタを手軽に呼び出したり、あるいは、エディタの選択部分に対して、sedとかawkのようなテキストフィルタをvi(ex)の!コマンドのようにフィルタをかけられたら便利かなと思い、敷居が高いと言われるOpen Tools APIに挑戦して、何とか実装してみようと。

本音を言えば、C++Builderで書きたいのだけど、キモであるウィザードインターフェースの実装部分が少々面倒*1なのと、デバッグ時に何故かブレークポイントを設定しても止まらない場合がある*2ので、少々不本意ながら記述言語はDelphiで。てか、Open Tools APIに関してはDelphiのほうが楽かも。

Open Tools APIって何?

Open Tools APIとは、RAD Studioを拡張するためのAPI群のことで、メインメニューに何らかの項目を追加したり、コードエディタ内部にアクセスするなど、これらを使用することによってRAD Studioを自由に拡張することが可能になる。IDEを拡張するには、後述する「ウイザードインターフェース」と「ノーティファイアインターフェース」と呼ばれるクラスを継承したサブクラスを持つパッケージを作成して、そのパッケージをIDEに登録するだけでOK。*3デバッグIDEそのものをデバッグする感じでデバッグが出来る。ただし、デバッグ時にパッケージの登録・削除を繰り返すとIDEが予期せぬところでコケるので、タスクマネージャの使用は必須。

リソースいろいろ

Open Tools APIについての役に立ちそうなリソースは以下の通り。

書籍類は両方とも絶版でAmazonでプレミア付き。でも、Delphiコンポーネント設計&開発完全解説はPDF版がある。

ウィザードインターフェース、サービスインターフェース、ノーティファイアインターフェース

ウィザードインターフェースとはIDEに対するアドオンとなるクラスのことで、用途によって以下の4種類がある。(ヘルプより抜粋)

インターフェース型 説明
IOTAFormWizard 通常,新しいユニット,フォーム,その他のファイルを作成する
IOTAMenuWizard へルプメニューに自動的に追加される
IOTAProjectWizard 通常,新しいアプリケーションまたはその他のプロジェクトを作成する
IOTAWizard 他のカテゴリに当てはまらないその他のウィザード

ノーティファイアインターフェースとは、IDEからの通知を受け取るクラスで、ウィザードインターフェースとセットで使用する。(ヘルプより抜粋)

インターフェース 説明
IOTANotifier すべてのノーティファイアの抽象基本クラス
IOTABreakpointNotifier デバッガのブレークポイントの発生または変更
IOTADebuggerNotifier デバッガのプログラムの実行,あるいはブレークポイントの追加または削除
IOTAEditLineNotifier ソースエディタ内の行の移動の追跡
IOTAEditorNotifier ソースファイルの変更または保存,あるいはエディタにおけるファイルの切り替え
IOTAFormNotifier フォームの保存,あるいはフォームまたはフォーム(またはデータモジュール)上の任意のコンポーネントの変更
IOTAIDENotifier プロジェクトのロード,パッケージのインストールなどのグローバル IDE イベント
IOTAMessageNotifier メッセージの表示におけるタブ(メッセージグループ)の追加と削除
IOTAModuleNotifier モジュールの変更,保存,名前の変更
IOTAProcessModNotifier デバッガにおけるプロセスモジュールのロード
IOTAProcessNotifier デバッガにおけるスレッドとプロセスの作成または破棄
IOTAThreadNotifier デバッガにおけるスレッドの状態の変更
IOTAToolsFilterNotifier ツールフィルタの呼び出し

サービスインターフェースとは、アドオンがIDEの機能(エディタ、デバッガなど)に対して何らかの操作を行う場合の仲介役で、これにアクセスすることで、IDEの内部を触ることが出来る。主なものとして以下の物がある。

サービスインターフェース型 説明
INTAServices IDEそのもの
IOTAEditorServices ソースエディタ
IOTAModuleServices IDEが開いているファイル・プロジェクトなど
IOTAMessageServices メッセージウィンドウ
IOTAKeyBindingServices キーバインド
IOTADebuggerServices デバッガ
IOTACodeInsightServices コードインサイト

実際にアドオンを実装する場合はパッケージを作成して、「ウイザードインターフェース」と「ノーティファイアインターフェース」を親に持つサブクラスを定義する。そのサブクラスをIDEに「登録」すれば、サブクラスはIDEのアドオンとなる。*4IDE内部で何らかの処理が行われた場合、「ノーティファイアインターフェース」の特定のメソッドが呼ばれるので、サブクラスに「ノーティファイアインターフェース」の対応するメソッドをオーバーライドしたメソッドを記述すれば、アドオンにおけるIDEからの応答先となる。そこで必要に応じてサービスインターフェースを介してIDE内部の情報にアクセスする。

これらのクラスの定義とインスタンスはToolsAPI.pasで定義してあるので、Delphiならばuses節にToolsAPIを記述、C++Builderならば、ToolsAPI.hppをインクルードする必要がある。最後に、プロジェクトマネージャの[参照の追加]で$(BDS)\lib\win32\release\designide.dcpをプロジェクトに含めておくこと。

*1:ただし、ヘルプからコピペでOK

*2:もしかしたら、おいらの環境だけかも。

*3:DLLでもOKだけど、まだテストしていない。

*4:インスタンスIDEが生成してくれる。